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ヨロンの種特集インタビュー「木川剛志監督『Yokosuka1953』」 ヨロン島で映画上映!
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インタビュー「木川剛志監督『Yokosuka1953』」
ヨロン島で映画上映!

Reporter スズキミキ

ライターが見つけた旬の話題を独自取材しました。

9月8日(木)、ヨロン島中央公民館で『Yokosuka1953』というドキュメンタリー映画が上演されました。映画の監督は、ヨロン島とゆかりが深い木川監督(和歌山大学観光学部教授/ヨロンパナウル王国観光大使)。今回は、中央公民館のスタッフ兼ヨロンFun事務局のミキが、上映会のために来島されていた木川監督にお話を伺いました。
あらすじはこちら→HP『Yokosuka1953』

 

「出来ることならやろう」映画への想い

ミキ: 昨日の上映会、ありがとうございました。まずは『Yokosuka1953』という映画を撮ろうと思った経緯を教えてもらえますか。

監督: 映画を作ったという感覚はないんですけどね。

ミキ: え?

監督: 1通のFacebookのメッセージが届いた。それが、僕にとってはだんだんと変わっていくものになったっていうことですね。

ミキ: …私が気になったのは、メッセージに対して、どうしてあそこまで監督が尽力されたのか?

監督: 以前から、戦争孤児については自分の中でも興味があったので、当時の新聞記事や文章を読んでいたこともあって。「戦後、大変だったな」と遠くから見ていたものが一気にステージの中に入った。「自分に出来ることならやろう」と思って動いてたっていう感じですね。

ミキ: 出来ることならやろう、ですか。

監督: もともと僕は都市計画や建築に興味をもっていて、建築って「建物という形があってできるもの」だと思うんですけど、それが、そうじゃないなって思うきっかけがいくつかあって。

ミキ: はい。

監督: 15年くらい前、大学院の博士課程の時に、韓国ソウル近郊の町に調査に行ったんです。戦前に日本の都市計画課が作った計画が戦後どうなっているか。日本人は全く住んでいなくて、よく分からないなぁと思いながら小学校へ行ったんですよ。今は出来ないだろうけど当時は学籍簿を見せてくれて。日本人の先生が現地の子どもを教えていました。その中の記述がすごく気になって。

ミキ: 何が書かれていたんですか?

監督: 「この子はとても優秀だけど、親が水商売をしていて、お母さんしかいない。これからどうやって彼を進学させたらいいだろうか」って。この時にいろいろ感じるものがあったんです。当時は日本と韓国は支配する・されるの関係でしたが、この先生は現地の子をちゃんと見て、先生として向き合っている。そのあとに町中を歩いていたら、それまでに見ていた風景が全部変わったんですよ。

ミキ: (頷き)

監督: それまで知らない町だったのに、なぜか急に知っている町のように見えた。ストーリーが入ってきた瞬間に、物事が変わって見える。これが、建築や都市計画と一緒だと思うようになりました。そんな体験がもともと背景にあって、動いたって感じです。

▲当時の新聞記事

映画を通して、真実を知って欲しい

ミキ: 映画の中で印象的だったのが、施設に産みの親や親族から誰一人として連絡がなかったという…。

監督: うん。たぶん、本当のことはおっしゃってないような気もします。

ミキ: 戦争孤児については、情報の開示が難しく、閉ざされているのではと思うのですが。

監督: 当時を知る高齢の方たちはみんな知っている話であっても、敢えて積極的に若い人たちに語っていくことではないということもあります。「戦後間もない頃は、きれいでお金持ちの貴族の令嬢でもコーラ1本で何とかなった」って言い方をされるのを聞いたんですが、当時の生活が苦しい中でコーラはすごい高価なものだったらしいです。それに対し、すごく人の命が軽いというか。

ミキ: はい。

監督: 外国人墓地に埋まっている子どもたちのことも認められてないですよね。そんなことなかったっていうような。でも、多くの孤児がいた。記録を見ていったら、レイプで生まれた子もいたり、路上にそのまま捨てられた子どもがいたりとか。戦後、なんでそんなことが起きたのか。それは遠い世界の話ではありません。戦争があったり、人が人を憎むということがあったりしたときに、差別や偏見はいつでも起こりかねない。自分たちはしないじゃなくって、その事実の中でどうしていくのかが大事かなって思います。

ミキ: 真実を知ったうえで、どうしていくかということですね。

監督: 2020年3月にこの映画をハワイでも上映してるんです。そこで言いたかったことは、「この映画は誰かを責める映画ではないということ」「社会のひずみの部分で苦しんだ人たちがいて、今後それをどうしていくかっていうこと」。やっぱりそれは対話というか、お互いのことをわかり合うということが大事と思います。

優しさがまわりまわって誰かのもとに

▲木川監督(左)にインタビュー

ミキ: 映画を観ていて、「愛」とか「やさしさ」を感じるシーンがありました。

監督: うーん、なんていうか。どこか自分に余裕がないから撮れた映画かもしれないです。タイトルの『Yokosuka1953』の文字はうちの息子が書いたんですよ。発達障害があるんですけどね。一時期は悩む時期もありました。やっぱり、しんどいですよね。で、しんどいからどうすんの? って時に、じゃあ僕はもっと他の人たちに優しくしようって思ったんです。

ミキ: あぁ。

監督: 優しさがまわりまわって、うちの子どもが大人になった時に誰かから優しくしてもらえたらいいなって。余裕のない世界では彼は生きていけないので。僕はバーバラさんのためにできる限りのことをした。誰かが誰かに何かをしてあげるっていう、そうゆう世の中になっていったらいいなと思う背景があったから、「出来ることならやろう」っていうのはありますね。

ミキ: それで納得しました! なんで監督がここまでするのかなっていう部分が、なんか、すっと入ってきました!

ヨロン島では「自然体でいられる」

▲監督がヨロン島でやること「海に入る」「島有泉を吞む」

ミキ: 木川監督とヨロン島とは、監督が総合ディレクターを務める日本国際観光映像祭の第1回大会でヨロン島が日本部門のグランプリを受賞してからのお付き合いですよね。受賞した後や、今年の映像祭沖縄祖国復帰50周年映像制作など何度もヨロン島を訪れている監督が思うヨロン島の魅力って何ですか?

監督: ヨロン島を好きになってきたのは…初めから好きですけど、特にコロナ渦になってからじゃないかなあ。みんなが一緒に生きていくっていう、人間らしさを感じるところがあって。

ミキ: 人間らしさですか。

監督: 「やさしさ」ですよね。

ミキ: 今回の旅で、優しさを感じることはありましたか?

監督: もう、あれですよ! 突然1週間前に「映画上映をしに来島したい」と言ってもなんとかしてくれるところ!(笑)

ミキ: あはははは(笑)

監督: あとは、この町って、そこまで自分を張らなくても大丈夫な気がしますね。自然体でいられるというか。観光で来られる方にもそういう感覚や、海の綺麗さだけじゃなくて、海と人との関わりに文化とか面白さ、魅力を感じてもらえたら嬉しいですね。

▲ヨロン島の海と木川監督

フィクションと違い、真に迫ってくるドキュメンタリー映画。苦手に思う人もいますが、「自分自身の成長を信じてみたり、世の中のこれからを考える時にはドキュメンタリーを通してこそ考えられることがある」と監督は話してくださいました。
若い世代にもぜひ観て欲しい映画です。皆さんも近くの劇場に見に出かけてみてはいかがでしょうか。

『Yokosuka1953』は2022年11月5日より全国順次公開です。

※掲載写真の一部は木川監督よりご提供いただきました。

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