2人目:喜島春樹さん(プロ万歳師)
※以下、敬称略
かな: さっそく伺っていきます。
春樹: はい。よろしくお願いします。
かな: ヨロン島に住んでいた時は、どんな少年でしたか?
春樹: ちびっこの頃は引っ込み思案というか、人と接するのが苦手で。保育園はあんまー(母親)と離れるのが嫌で行かなかったくらい。ずーっと家でテレビ見てました。
かな: 学校時代は? 部活は何部でしたか?
春樹: ボケるとしたらデ部って言うべきなんでしょうが。
かな: (笑)
春樹: 小学生から高校まで剣道部で、途中吹奏楽部もはさみつつ。高校では、生徒会長でした。
かな: えぇー、そうなんですか!?
春樹: 何ですか、その驚き方は。
かな: いや今のキャラクターからは(笑)
春樹: 僕、3年間毎日雨の日も風の日も、昼休みに校内をごみ拾いしてたんですよ。生徒も先生も「春樹、お前また何かやったのか」って言って、ごみ拾いって誰も信じてくれませんでしたけど(笑)
かな: 海はよく行ってました?
春樹: そりゃもちろん行ってました。他に行くとこないですもんね。行ってましたけど、あんまり言わない方がいい使い方で行ってたり。
かな: 言わない方がいい使い方?(笑)
春樹: ただ海行って、海で寝てそのまま学校に行ったり。
かな: ほう。
春樹: 学校帰り、みんな行きますよね。今日の海いい感じだな、行こうかって。
かな: 海が遊び場ですね。
春樹: 学校帰りじゃなくても、勝手に学校から帰るときとか。
かな: え?
春樹: 海行ったら食料もあるし。
▲オンラインインタビュー「春樹さん、初めて雪を見た話」
かな: 高校卒業後は大学進学ですか?
春樹: いえ。就職も進学も決めずに東京に行って、着いたらすぐに求人情報誌で仕事見つけて働き始めました。
かな: へえ。
春樹: 都会でどういう生活になるかわからないし、就職で決めて行っちゃうと会社に迷惑かけるかもしれない。会社に迷惑をかけたら、次の世代がヨロンの子を雇ったらだめよとか言われるかも。それなら自分で勝手にやって勝手に失敗したほうがいいなって。
かな: そんなふうに考えてたんですね。ヨロン島を離れてカルチャーショックだったことはありました?
春樹: それ言い出したらキリがない、全部ですよね。役所行って手続きも全部自分でやらなくちゃいけないんだけどわからなくて。役所の人にめちゃくちゃ怒られました。「君はいったいなんのために東京来たんだ。これから1人で暮らすんだろ。全部1人でやらなきゃだめだ」って。今だったら考えられないと思うんですけど。
かな: (笑)
春樹: 電車の乗り方も切符の買い方もわからない。今と違ってスマホで調べられないじゃないですか。(困っている人がいても)誰も心配してないっていうのも島と違うし。
かな: そうですよね。
春樹: 雪が降ってるのに誰もニコってしないのもびっくりしたし。
かな: あはは(笑)
春樹: 最初、雪ってわからなかったですもんね。気付いて、嬉しくて商店街走り抜けましたもんね。大声出せないからこうやって。(笑い声を殺しながら満面の笑みで商店街を走るジェスチャー)
かな: あっはは(大ウケ)
春樹: 冷蔵庫も洗濯機もテレビもない何もないところから一人暮らしを始めて、ひとつひとつ入手していくときの喜びもありましたね。「やったぜ、冷蔵庫来たぜ!」みたいな。抱きつきましたもんね、ひとつひとつ届くたびに。「どっか行くなよー。長く付き合ってねー」って。
かな: なんか、なんかいいですね(笑)
▲タッタタ探検組合 東京公演での一幕
かな: 今のお仕事、肩書は何になりますか?
春樹: これが難しいんですよ。僕、名乗ってないんです。自分でユーチューバーって言ったこともないし、俳優ですって言ったこともない。まぁ無職ですって言ってますね。
かな: お仕事の比重は何が大きいんですか?
春樹: 収入で言うとYouTubeが一番かな。お店や団体の宣伝とかも含めてYouTube関連。
かな: YouTubeはいつから?
春樹: たぶんもう9年くらい。オールナイトニッポンのオーディションがYouTubeでしか参加できなかったんですよ。それをやったことがあったので、演劇で呼ばれたときに、所属とか事務所名のところを何て書く? って聞かれて、じゃあこれから毎日YouTubeやるんでそれでって言っちゃったんです。言っちゃったので始めた感じですね。
かな: 役者はいつから?
春樹: 島を出てお金を稼ぎつつ、お笑い芸人の道を模索してたんです。1年間お金を貯めて東京NSCに入って、お笑い活動しつつ司会業とかやってたんですけど、地域戦隊ってわかります?
かな: はい、わかります。
春樹: 地域戦隊の多摩川戦隊コマレンジャーに参加してたメンバーから、面白いから見に来ればって言われて。人の仕事を見るの大好きなんですよ僕。見学に行ったら演劇の偉い人が「あんた見た目も面白いしそのまま参加しちゃいなさいよ」って言われて参加して。それからです、演劇は。
かな: お笑いはいつまで?
春樹: いつまで…。
かな: 今も、なのかな?
春樹: お笑いは続けてるつもりもないし、やめてるつもりもないんですけど。あ、「与論やまぐ学校」だけじゃなくて、お笑い演劇ユニット「ハレとケ」をやっていて。ぜひ見てください。文化庁芸術祭大衆芸能新人賞を受賞した落語家の柳家東三楼とか、意気投合したおじさんたちが集まって演劇したりコントを作ったりしてます。
かな: 人前に出たいという気持ちはヨロン島にいた頃からあったんですか?
春樹: ほんとのほんとは苦手です。小学校の頃も引っ込み思案だったんですけど、ちょっとだけ授業中に冗談言ったら、普段話しかけてこないクラスメートが話しかけてくるし相手にされるし扱いが違うなって感じたんですね。こうやって生きていけばうまくいくんじゃないかなってその時に思って。
かな: 最初は世渡り術的な感じで始めて。
春樹: そうそう。その頃からいろいろ実験始めて。いまだに実験中なんですけど。
かな: なるほど。
春樹: 自分改造っていうか、楽しい生き方ってなんだろうを模索している延長線上でお笑いをやって、呼ばれるからやって呼ばれるからやっての繰り返しですね。
呼ばれるってことは必要とされてるって思うことにしてるんです。求められることはいいことだ、って。
▲タッタタ探検組合 ヨロン島公演の一幕。衣装も素敵
かな: ヨロン島に帰省することはありますか?
春樹: タッタタ探検組合の公演の前年に、8年ぶりに帰りました。手ぶらで帰るのがすごく嫌で、なんかこっぱずかしいというか、帰りづらい。本当はすごく帰りたいんですけど。
かな: 公演おもしろかったです。あの公演はなにがきっかけで実現したんですか?
春樹: 劇団のメンバーがヨロンに興味を持っていて。初の地方公演はどうしようか、ヨロン島でやりたいねという流れだったと思います。
かな: 島で地方公演って、なかなか聞かないですよね。
春樹: 最初はやめてください、って言ってたんですよ。儲からないし。どうしてもやりたいってことだったので、東京公演と合わせるなら何とかって話をして。結果、ヨロン島で大大成功、東京に戻ってから台風で公演が半分ダメになって赤字でした。
かな: 海の話だったのが島民には嬉しかったです。春樹さんはカメの役でしたね。
春樹: 僕が幼稚園で初めて人前でやった役がカメだったんですよ。おじさんになってカメで島に帰ったなと思って。
かな: カメで里帰り(笑)
春樹: 高校の時に道路に上がってきたでっかい海ガメを助けて、「ヨロンの浦島太郎」って新聞に載ったこともあるんですけど、そのカメは僕に恩返しに来ないですね。
かな: 島にいる同級生たちがチケット販売したり裏方を手伝っていたのも印象的でした。
春樹: みんな、かっこよかったですほんと。冗談抜きで僕、涙出ましたからね。最高に楽しかったし幸せでした。
かな: 私たちもみんな楽しかったですよ。また公演見たいです。
春樹: やりたいですね、いろいろ。
▲ヨロン公演には、島出身の竹さんも出演(左上)
かな: ヨロン島に思うことを聞かせてもらえますか?
春樹: いろいろありすぎるというか。よくなって欲しいけど、じゃあよくなるって何なんだ? とか考えますよね。観光のお客さん増えて欲しい…じゃあどれくらい増えればいいのか。そもそも観光に依存すべきなのか、とか。いろいろ考えます。
かな: うん、うん。
春樹: でも僕らがちびっこだった頃に比べると人口少ないのかなとは思います。いま暮らしてるちびっこたちが何かしたいなって思ったときに相談できる先輩とか友達がいる環境はあったらと思いますね。少しでも楽しい未来のことを考えると、少なすぎるかな。
▲春樹さんのちびっこ時代
かな: これからの夢は?
春樹: 大きく言うと世界平和。
かな: おぉぉ!? 大きい!(笑)
春樹: 平和ってなんなんだ? っていうと、楽しく生きようなのかな。争いが起きないようにするには、自分のことや自分の地元が好きって気持ちが広がると世界平和なんだなって思うんです。
かな: 好きが広がると、世界平和に繋がる。
春樹: でも、そんな話しても誰も聞かないじゃないですか。人参嫌いな子にカレーに刻んで入れてわからないようにするみたいに、あほなおじさんが話してる中にその要素をちょっとずつちょっとずつ組み込んで、ヨロン島の宣伝したり気付かないうちにわかってもらえるといいなと思って。そういう種まきを続いていけるといいな、と。
かな: (頷く)
春樹: こういう仕事をしたいとか、これだけの収入を得たいというんじゃなくて、馬鹿なおじさんが何をやってるんだろうでいいので、末永く続けていければいいなと。
ごめんなさい、よくわからないですよね。
かな: いえ。地域の事をよく知ってほしいって、今って教育もそういう方向ですよね。ヨロン島を誇りに思って島を出てほしいです。
かな: では最後に、子どもたちにメッセージをお願いします。
春樹: ユーチューバーはなろうと思ってなるもんじゃないよ!
* * * * * * * * * *
かな: ありがとうございました。ところで、ここでは肩書的なものはなんて書きましょうか?
春樹: 万歳師(バンザイシ)はどうですか? 全然そんな話でませんでしたけど。
かな: 全然でませんでしたけど、わかりました。次に紹介してくれる人は誰かいますか?
春樹: 華がある方がいいですよね、輝樹に声かけてみますよ。
かな: おぉ、すごい。実現したら嬉しいですけど。でも出てもらってもヨロンFunでは謝礼も何もないんですけど…。
春樹: それも含めて聞いてみます。
かな: よろしくお願いします。今日はありがとうございました!
(おわり)